実務ガイド

部門横断の責任分界(設計・QA・情シス・経営)の決め方
(OEM調査依頼で止まらない運用設計)

OEM調査依頼や監査対応で一番止まりやすいのは、技術判断そのものではなく、「誰が何を決めるか」が曖昧なことです。

  • 設計は「技術確認はするが、対外回答は品質でしょ」と考える
  • QAは「根拠を作るのは開発でしょ」と考える
  • 情シスは「製品ではなく社内IT担当なので対象外」と考える
  • 経営は「最後に承認だけ」と思っているが、判断材料が上がってこない

この状態だと、期限(SLA)だけが近づき、結論も証跡もまとまりません。
FIRSTのPSIRT Services Frameworkでも、PSIRTは製品開発から切り離された独立組織ではなく、開発・テスト/品質保証・サポート・法務/広報など複数の内部関係者と連携する前提で整理されています。また、内部関係者とその役割を理解し、必要なコミュニケーション方法を整えること、さらにインシデント対応時には PSIRT、開発、サポート、サプライヤーなどを集めて状況把握することが推奨されています。

CISAの脆弱性開示 handling procedures でも、報告の追跡、内部調整、影響評価と優先順位付け、外部とのコミュニケーション、そして目標時間(timelines)を定めて追跡することが求められています。つまり、責任分界とは「組織図の問題」ではなく、内部調整と期限運用を成立させるための設計です。

先に結論:4部門は「4役」に変換すると決めやすい

部門名のままだと、責任が重なって揉めます。
最初は 設計・QA・情シス・経営 を、そのまま部門で切るのではなく、次の 4役 に変換して考えると整理しやすいです。

技術評価

対象版数、構成、到達性、影響有無を確認する

→ 主に設計/開発が担当

対外回答

OEM向け回答文、提出物、証跡の整理を行う

→ 主にQAが担当

運用・証跡管理

チケット、期限、保存場所、ログ、権限、社内連絡を整える

→ 情シスまたはPSIRT窓口機能が担当

承認・経営判断

期限交渉、リスク受容、外部発信の承認を行う

→ 経営層または部門長が担当

この4役に置き換えると、誰が“作る側”で、誰が“決める側”かが見えやすくなります。

部門別に見ると、何を持つべきか

設計/開発

設計は「技術評価の責任者」です。持つべき責任は次の通りです。

  • 対象製品・対象版数の確認
  • 構成やSBOM、設定、IFの確認
  • 影響あり/なし/調査中の技術根拠の提示
  • 暫定対策/恒久対策の案出し
  • 修正版の対象版数、更新方式の提示

逆に、OEMへの最終文面を設計だけで確定させる必要はありません。

QA(品質保証)

QAは「対外回答の責任者」です。持つべき責任は次の通りです。

  • OEM/顧客との窓口
  • 受領確認、一次回答、最終回答の期限管理
  • 回答書の組み立て(結論→根拠→対応方針→証跡)
  • 提出履歴の管理
  • 監査証跡の整理

QAが“技術判断そのもの”をする必要はありませんが、技術判断を対外説明に変換する責任を持ちます。

情シス/PSIRT窓口

情シスは、自社ITだけでなく、PSIRT窓口機能を兼ねるなら「運用設計」の責任を持ちます。

  • チケット/案件IDの管理
  • 証跡の保管場所、アクセス権、命名ルール
  • 期限管理表の更新
  • 社内エスカレーションの運用
  • 監査時に再現できるログの保持

ここは“技術評価”と混同しやすいですが、主役は運用を回すことです。

経営/部門長

経営は最後に判子を押すだけではありません。持つべき責任は次の通りです。

  • 期限交渉やリスク受容の承認
  • 重大案件での優先順位付け
  • 追加工数や予算の判断
  • 対外的に重い回答の承認
  • 例外運用の承認

経営が入るべき場面を決めておかないと、全部の案件で承認待ちになって詰まります。

手順:責任分界を決める(5ステップ)

Step 1

まず“決めること”を洗い出す

部門ではなく、決める対象を列挙します。たとえば次のようなものです。

  • ・対象版数を確定する
  • ・影響あり/なしを決める
  • ・一次回答を出す
  • ・最終回答を承認する
  • ・証跡を保存する
  • ・期限交渉をする
  • ・修正版の出荷を決める
Step 2

RACIで4列だけ作る

最初は細かくしすぎず、4列だけで十分です。

R:実行
A:最終責任
C:相談
I:共有
Step 3

案件の重さで“承認線”を分ける

すべての案件で経営承認が必要だと止まります。たとえば次のように切ると現実的です。

  • 軽微: QA承認
  • 通常: QA + 設計責任者
  • 重大: QA + 設計責任者 + 部門長
Step 4

証跡の責任者を別で置く

多くの現場で抜けるのがここです。技術評価があっても、証跡を残す人がいないと監査で弱くなります。最低限、証跡管理のOwner を1人決めてください。

Step 5

例外時のルールを先に決める

上流回答待ち、設計不在、承認者不在など、例外は必ず起きます。その時の代替ルール(エスカレーション先)を、最初に決めておくと事故が減ります。

そのまま使える:責任分界(RACI)テンプレ

以下のような表を1枚持つだけで、かなり安定します。(※ これは雛形です。実際には組織構成に応じて入れ替えてください。)

決めること 設計 QA 情シス/PSIRT 経営/部門長
対象版数の確定 R C I I
影響有無の技術判断 R C I I
OEM一次回答の作成 C R C I
最終回答の承認 C R I A
証跡の保存/管理 C C R I
期限交渉 C R I A
修正版の出荷判断 R C I A

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よくあるNG例(体制が回らなくなる原因)

  • 設計が“全部やる”ことになっている
    技術も対外回答も証跡も全部抱え込み、止まりやすくなります。
  • QAが“取りまとめるだけ”で責任が無い
    文面調整しかできず、期限交渉や証跡管理が宙に浮きます。
  • 情シスが関与せず、ログと証跡が散らばる
    後から監査で辿れなくなります。
  • 経営承認が全部に必要
    軽微案件まで承認待ちになり、SLAを落とします。

FAQ:責任分界・RACIの決め方

Q1. 責任分界は部門で切るべきですか、役割で切るべきですか?

最初は役割で切る方が整理しやすいです。部門名だけで決めると、責任が重なったり抜けたりしやすくなります。

Q2. 兼務でもRACIは必要ですか?

必要です。むしろ兼務ほど「どの帽子で判断しているのか」を明確にする必要があります。

Q3. 経営はどこまで関与すべきですか?

重大案件、期限交渉、リスク受容、対外回答の承認など、“重い判断”だけに絞ると運用が崩れにくいです。

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